業務そのものを再設計した
産後ケアDX
産後ケア予約サービス開発プロジェクト
プロジェクトの背景
自治体が民間事業者に委託して実施されている産後ケア事業は、そのサービスを必要としている当事者にとって利用の障壁が高い現状があります。
妊娠・出産期は心身ともに大きな変化があり、休息や育児相談といった支援が重要とされています。しかし実際には、制度自体の認知不足や手続きの煩雑さから、支援が届きにくく、なかなか利用につながらないといった課題がありました。
多くの場合、利用には手書き用紙での申請や電話での予約が必要となり、体調や気持ちが不安定な時期の女性にとって大きな負担となります。
また、事業者や自治体においても、予約調整や利用管理、報告業務などを手作業で行うケースが多く、業務負担が大きいという課題を抱えていました。さらに自治体領域においては、制度や前例に基づいた運用が重視される傾向があり、一度定着した業務フローが見直されにくいという構造も存在していました。こうした環境が、結果として支援の届きにくさを助長している側面もありました。
こうした背景のもと、グッドバトンでは、産後ケアの利用申請から予約までをオンラインで完結できる予約サービス「テオテ産後ケア(旧:あずかるこちゃん産後ケア)」を構想しました。
この構想において特徴的だったのは、単に予約をデジタル化するのではなく、産後ケアを必要とする当事者へ確実に届けるという目的から逆算し、その裏側にある業務や運用のあり方そのものを見直そうとしていた点です。
2049はこの思想に共感し、開発パートナーとしてプロジェクトに参画。単なるシステム開発にとどまらず、この思想を現実の運用として成立させるための設計と実装を担いました。
確実な価値提供を目指した要件整理
2049は、テオテ産後ケアの初期開発フェーズからプロジェクトに参画しました。
当初の構想では、利用者は24時間いつでも予約が可能で、事業者にとっては紙や電話に頼っていた予約管理をウェブ上で一元化できる仕組みが検討されており、利用者・事業者・管理者それぞれのサービス画面についても、詳細な仕様やUIが設計された状態で相談が持ち込まれました。
しかし開発の視点から確認すると、細かな表現にこだわったUIや機能が多く含まれており、それらをすべて実装するには相応の工数がかかることが明らかになりました。加えて、本プロジェクトは助成金事業として進められていたため、限られた期間内で確実に価値を実現する必要があり、スケジュール上の制約も非常に大きい状況でした。
こうした中で浮かび上がったのが、「本来の目的と、実装しようとしている内容とのズレ」でした。
テオテ産後ケアの目的は、「利用者が簡単に予約できること」「事業者が無理なく予約調整できること」にあります。しかし、検討されていた仕様の中には、その目的に直接的には関係しない要素も多く含まれていました。
そのため2049では、一つひとつの機能の必要性、工数をかけるポイントと目的の妥当性といった観点から、仕様の見直しを提案しました。
ここで行ったのは単なる機能削減ではなく、実装すべきものを選び直す意思決定でした。限られた期間の中で最大の価値を出すために、表現や要望の背景にある意図を分解し、本質的な価値に直結する要素へと再構成しています。
デザインと開発の意図が交差し、調整が難航する場面もありましたが、代替案や実装イメージを具体的に提示しながら丁寧に合意を形成。限られた期間の中でも、目的に対して最大限価値を発揮できる形へと整理していきました。
このように本プロジェクトでは、与えられた仕様をそのまま実装するのではなく、目的に照らして「何を実現すべきか」を再定義するところから開発が進められました。
ネット予約に加え、自治体の事業運営基盤の機能も備えたサービスへ
サービスの開発と運用を進める中で、このプロダクトは産後ケアのネット予約サービスから、自治体による事業運営を支えるための仕組みへと拡張していきます。
産後ケア事業は、利用者・事業者・自治体という三者が関わる構造の中で成り立っています。テオテ産後ケアの普及にあたっては、自治体単位での導入が重要な鍵となり、自治体向け機能の開発が進められました。
具体的には、自治体の委託先事業者の管理や、市民の産後ケア利用状況の管理、補助の回数管理に対応する仕組みといった、事業運営に必要な機能が順次整備されていきました。
こうした背景から、新潟県糸魚川市を対象とした実証プロジェクトが実施されました。設計にあたっては、現地でのヒアリングを通じて、自治体職員の業務内容や運用フローを把握するところからスタートしました。
グッドバトンは、必要とする当事者へ支援を確実に届けるという目的に立ち返り、現行の運用が必ずしも最適とは限らないという問題意識を持っていました。
その考えをもとに、既存の運用を前提とせず、業務の見直しが進められました。
例えば、従来は4回の承認を経ていた業務についても、その必要性を問い直し、ダブルチェックで十分であるという考えのもと、2回の承認プロセスへと再設計しています。こうした、本来変えにくい前提にも踏み込みながら、運用の再設計が行われました。
2049は、こうした見直しを実際の運用として成立させるために、具体的な画面設計やフローへと落とし込み、現場で機能する形へと調整を行いました。
この実証で得られた知見をもとに、特定の自治体に閉じない形で導入モデルが整理され、現在では他自治体への展開が進んでいます。
業務から変える、という思想を現実に落とし込む
本プロジェクトでは、既存の業務にシステムを合わせるのではなく、目的から逆算して業務とシステムを同時に設計するアプローチが取られています。
一般的に、自治体が関わる制度事業においては、各自治体の業務フローや運用を前提とし、それらに対応できる形でシステムが設計されることが多くあります。
一方でグッドバトンは、既存の運用を前提とするのではなく、本来の目的から逆算し、業務のあり方そのものを再定義することを重視していました。
2049は、その思想を前提に、「システムで解決すべきこと」と「運用の見直しで解決できること」を切り分けながら、全体として成立する形へと設計しています。
また、プロジェクトの進行に伴い、開発にとどまらず、要件整理や設計、プロジェクト推進にまで関わりながら、複数の関係者の間に立ち、意思決定そのものを支える役割を担うようになりました。
現在は毎月のリリースを重ねながら、機能改善や追加開発が継続的に行われています。
寄せられる要望についても、そのまま機能として実装するのではなく、運用の見直しで対応できるか、他自治体にも価値があるかといった観点から整理し、優先順位の検討を含めてプロジェクトを推進しています。
96.3%削減が示す、業務変革の手応え
糸魚川市での実証では、産後ケア予約サービスの導入によって自治体業務の大幅な効率化を実現しました。
産後ケアの利用申請の受付から承認通知の発出までにかかる業務時間は96.3%の削減。申請1件あたりでは平均41.5分から約1.5分へと短縮され、約40分の削減となり、仮に100件の申請があった場合には約66時間40分の業務時間短縮につながる試算となりました。
利用者側は、スマートフォンからの手続きが基本となったことで、窓口や電話での利用申請や予約がなくなりました。事業者側でも予約管理や報告業務が効率化され、サービス提供に集中しやすい環境が整いました。これにより、従来は手続きや業務負担によって阻まれていた支援が、よりスムーズに利用者へ届くようになりました。
2026年6月現在、本サービスは9自治体で導入が進んでおり、今後も導入自治体の拡大が予定されています。
変わりにくい環境を、運用から変えた
本プロジェクトの価値は、産後ケアへのアクセス向上にとどまらず、妊娠・出産期の女性を取り巻く環境全体を再設計している点にあります。
特に自治体領域では、前例踏襲や制度制約により、業務そのものを見直すことが難しく、システム導入後も運用が変わらないケースが多く見られます。
本プロジェクトでは、こうした前提に対して、単にシステムを導入するのではなく、業務や運用そのものを見直すことに踏み込みました。
グッドバトンの思想を、2049が制度・業務・システムのレベルで接続し、現実に機能する形として成立させました。
変わりにくい環境に対して、運用から変革を実現した事例であり、その実現に2049が開発の面から寄与しています。
- Contents
- プロジェクトの背景
- 2049が行ったこと
- プロジェクトの特徴
- プロジェクトの成果
- このプロジェクトの価値